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東京高等裁判所 昭和47年(行コ)38号 判決 1973年5月30日

東京都豊島区南大塚一丁目二七番一五号

控訴人

中村友喜

右訴訟代理人弁護士

山口民治

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

代表者法務大臣 田中伊三次

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被控訴人

東京国税局長

中橋敬次郎

両名指定代理人 篠原一幸

小林高松

内海一男

桑名道男

被控訴人東京国税局長指定代理人

河奈祐正

竹内学治

大石敏夫

右当事者間の昭和四七年(行コ)第三八号賦課処分無効確認等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人東京国税局長は控訴人に対し、同被控訴人が控訴人の昭和三六年分所得税の無申告加算税一、一一四、〇〇〇円、延滞税三、六一三、八〇〇円、旧利子税二一、三八〇円の徴収のため昭和四五年一月一四日控訴人の住友不動産株式会社に対する実測精算金未収金債権六四、四二一、六四〇円につきなした差押処分は無効であることを確認する。被控訴人国は控訴人に対し、金四、四五六、八九〇円およびこれに対する昭和四四年五月三日以降完済に至るまで年五分の金員の支払いをせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、次に付加するほか、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人は、「本件課税処分は、昭和二一年四月二三日終連報甲第四四五号連合軍最高司令官命令、昭和二一年五月二四日勅令第二八六号特定財産管理令四条、昭和二一年五月二五日大蔵省令第六五号特定財産管理規則、憲法一七条等に違反し、大蔵大臣の許可なくして特定財産である本件土地建物に関し課税し、かつ課税額から控除すべき使用料等を控除しないで課税したものであり、また凍結財産の引渡しが完了しない間に所有者がなした右財産の譲渡につき所得税は課税すべきでないのにこれが課税をなしたものである。なお、特定財産管理令が廃止されても、凍結財産につき財産目録に基づき諸費用清算がなされて財産が被凍結人に引き渡され、同人が異議なく受領するまでは凍結は継続しているものであるから、その財産が売却されてもこれに課税することはできない。仮にできるとしても、控訴人の本件土地建物の売却代金三、〇〇〇万円から凍結中の必要経費等を差し引けば、控訴人は右売却により損失を被つた計算になる。このような点を看過してなされた本件課税処分には重大かつ明白な瑕疵があるものというべく、したがつて、右課税処分は無効である。」と陳述し、

被控訴人ら代理人は、「特定財産管理令は、昭和二七年三月二八日『ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く賠償庁関係諸命令の措置に関する法律』(昭和二七年法律第一六号)三条により、廃止されており、本件課税処分に右法令が適用される余地はない。仮に本件土地建物が特定財産にあたるとしても、本件課税年分にかかる所得税の非課税所得は、旧所得税法六条に規定されているところ、特定財産に関する規定はなく、本件譲渡所得が非課税所得にあたらないことは右六条に照らして明らかである。したがつて、本件課税処分には重大かつ明白な瑕疵はなく、右課税処分およびこれに基づく差押処分が無効であることを前提とする控訴人の請求は失当である。」と陳述し、

当審における新たな証拠として、控訴人は、甲第一一号証を提出し、被控訴人ら代理人は、甲第一一号証の成立を認めると述べた。

理由

一、当裁判所は、控訴人の本訴請求を理由がないと判断するが、その理由の詳細は、次に付加するほか、原判決の理由に記載のとおりであるから、これを引用する。

二、原判決一一枚目裏六行目の「末収金」とあるを「未収金」と、同四行目の「再評個税」とあるを「再評価税」とそれぞれ改める。

三、控訴人が当審においてなした前記主張について判断する。

特定財産管理令(昭和二一年勅令第二八六号)は「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く賠償庁関係諸命令の措置に関する法律」(昭和二七年法律第一六号)三条により昭和二七年三月二八日廃止されているから、本件課税処分に同令および同令に基づく特定財産管理規則は適用されないことが明らかである。そしてまた、本件土地建物の譲渡がなされた時のその譲渡所得の所得税につき適用される旧所得税法六条には非課税所得が掲げられているが、特定財産の譲渡所得等については規定がなく、それについて特別の取扱いがなされるべき根拠はないから、控訴人のなした本件土地建物の譲渡につき、旧所得税法により所得税が課税されるべきことは明らかである。したがつて、同法に従つてなされた本件課税処分は適法であり、控訴人主張のように重大かつ明白な瑕疵はない。本件課税処分に違法な点のあることを前提とする控訴人のその余の主張の理由のないことは明らかである。

四、そうすれば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人の控訴は理由がないかられこれを棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 位野木益雄 裁判官 鰍沢健三 裁判官 鈴木重信)

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